b1
b3
b2
b4
b5
 
  COPYRIGHT(C)1998-ARAKAWA KATSUMI,SAIDIA FURAHA wo SASAERU KAI & Hikari Miura ALLRIGHT RESERVED. Illustration by Jin Kawaguchi. 禁無断転載  

 

 

 

 

 

現地サイディア・フラハの訪問レポートです。じかなる体験の、生の声をどうぞ。

サイディアの子どもたちとギターとサッカーでコミュニケーション!
亀田 信暁 
 

私はエチオピア・ケニアを旅するなかで、『地球の歩き方』というガイドブックに「サイディア・フラハ」というNGOが掲載されており、ケニアの子どもたちの状況を見てみたいとワークキャンプに参加させていただきました。サイディア・フラハには幼稚園、小学校、裁縫教室、児童養護施設、裁縫工房があります。私はその園内にあるスタッフが生活する部屋をお借りし、幼稚園、小学校などへ見学・参加などをしながら2週間、子どもたちと生活させていただきました。中でも児童養護施設の子どもたちとは長い時間接することとなり、英語やスワヒリ語を教えてもらったり、ケニアの文化を教えてもらったり、薪割りのやり方を教えてもらったりとても楽しい時間を過ごしました。ケニアは治安が悪く、貧しいというイメージが正直私にはありました。確かにそういった部分も街を歩くと実感しましたが、サイディア・フラハだけでなくケニアのいたるところに子どもたちの笑顔が沢山ありました。   (2016年6月 2週間滞在)

【授業見学】

 サイディア・フラハに到着して最初の3日間は、幼稚園から小学校、裁縫教室に実際に授業に参加させていただきました。こちらには現在、幼稚園が3クラス、小学校が1年生から4年生まで1クラスずつ、それに裁縫教室が1クラスあります。その8つの教室を回らせていただきました。子どもたちは私がクラスに入ると歌を歌い、ダンスを踊り大歓迎してくれました。一番後ろの席に座り授業を受けました。一所懸命勉強している子どももいれば、粘土遊びや友達とおしゃべりに夢中で先生から怒られる子どももいて、日本とほとんど変わらない授業風景がそこにはありました。ケニアは英語と数学に力を入れているそうで、小学校の授業は数学や社会なども英語でしていました。小さい子どもたちも流暢に英語を話していて驚きました。
 子どもたちは外国人の私にとても興味をもってくれ、屈託のない笑顔で接してくれました。一つだけ気になる事と言えば、ムズングという言葉です。町を歩いていれば、右から左から前から後ろから上から「ムズング」と声をかけてきます。園内の子どもたちも私を見るなり目を輝かせムズング!ムズング!と元気よく呼んできます。ムズングとはケニアの言葉で「白人」と言う意味のようです。子どもたちも悪気があるわけではありませんし、私が気にしなければいいだけの話しなのですが、とても気になります。白人黒人と呼び合う先に明るいことは何もない気がして、園内の子どもたちには“not ムズング.I’m Nobu!”と言い続けました。
 ある時、私が“not ムズング.I’m Nobu!”と言っているのを見ていた児童養護施設で生活する女の子が話しかけてきました。「ムズングの意味知っているの?」と。それに対して私が「白人と言う意味でしょ。そう呼ばれるのは、あまり好きじゃないな。」と言うと、彼女は「私もムズングと言う言葉は嫌い」と言ってくれました。ケニアの人の中にも「ムズング」という言葉を嫌いな人がいるんだと知り、少し嬉しい気持ちになったことを覚えています。2週間の生活の中で、最初の頃ムズングと駆け寄ってきていた子どもが、Nobuと名前を呼んで駆け寄ってきたりするようになって、子どもたちとの距離が縮まったと勝手に感じています。

【サッカー】

 私は、高校までサッカーをしていました。サッカーは世界共通語という言葉がある通り、どこへ行ってもサッカーをしています。エチオピアやケニアもまたしかり。しかし、街の中でちゃんとしたボールを使ってサッカーをしていることは少なく、ゴミ袋をまとめてボールを作ったりしていることが多かったです。サイディアにはボールがあり、子どもたちは休み時間や体を動かす時間になると必ずサッカーをしています。私も混ぜてもらいました。子どもたちが駆けまわる広場は、なだらかな坂道になっていて、でこぼこしています。そして木の枝や石ころも転がっています。その中を子どもたちは裸足でボールを追いかけて駆けまわります。私は怪我をしないように靴をはいて恐る恐る走る情けなさです。子どもたちは女の子男の子関係なく、思いっきりボールをけり、ゴールが決まると大喜びします。これでもかと言うほど飛び上がって喜びます。滞在中ほとんど毎日一緒にサッカーをしましたが、同じチームの子たちが大喜びしてくれるので本気でゴールを狙っていました。

【音楽】

 私は音楽をやっています。音楽は世界共通語という言葉があるように、音が鳴り、リズムを刻めばみんな踊り出します。日本人はあまり踊りませんがアフリカの人たちはすぐに踊ります。最高に素晴らしいノリです。私はギターを少し弾けるのですが重いこともあり旅に出るときは持ち出しません。しかしこんなことを耳にしました。ケニアの教育は英語、数学などに力を入れているけれども、授業中に絵を描いたり、図工をしたり、音楽をするということは少ない。ギターもなかなか見たことがないというのです。それで、ナイロビに行った際に安いギターを購入しました。持ち帰ったギターに児童養護学校のみんなが喜んでくれました。♪歌え歌え♪と促されて、数曲歌うとすぐに曲を覚えてしまいます。そして一緒に歌い踊り出します。歌っているこちらが気持よくなります。最後のほうには、自分たちでスワヒリ語の替え歌を作り私のメロディーに合わせて歌い出し、曲を1曲を作ってしまいました。児童養護施設の子どもたちには、時間があるときにギターの弾き方、持ち方、調律の仕方などを教えましたが、なかなか覚えようとしてくれません。それどころか弦を2本切り、チューナーを壊してしまい、やれやれという感じでした。しかしながら、まったく調律が合っていないギターで、全然弾けていないにも関わらず、物凄く気持ちよさそうにギターを持つ彼女たちの姿を見て、何も教えることはないなと思いました。残してきたギターが何らかの形で機能しているのを願うばかりです。幼稚園、小学校の子どもたちには最終日に各教室を回ってギターを弾きました。みんなノリノリで目をキラキラさせながら聞いてくれました。

【児童養護施設の子どもたちと】

 冒頭でも申しましたが、2週間のワークキャンプの中で多くの時間を一緒に過ごしたのは児童養護施設の子どもたちでした。ここには7歳から17歳までの女の子が17名共同生活をしています。授業が終わると彼女たちは重い斧を使い薪を割ったり、火をおこし料理をしたり、掃除をしたりと忙しく働きます。私も薪割り、料理作りをお手伝いせていただきました。こちらでは豆を使った料理が多く、大量の豆を前にしてみんなで輪になって、豆の選別をするのが毎日の日課です。穴が開いたもの、しわくちゃになったもの、そういった豆を捨てていきます。私はそのうち、サイディアの庭のあちこちから豆の樹が生えてくるのではないかと心配になったりもしました。それはさておき、この時間が彼女たちとゆっくり話せる時間です。サイディア・フラハが日本からの支援を受けていることもあり、日本の事に興味津々。日本の雑誌を持っている子どももいて、雑誌に載っている料理を一つ一つ指さし、これはどんな味かと何度も聞いてきます。また雑誌に載っている女性を指さし、この人は綺麗か?好きか?聞いていきます。この人すごく綺麗だよと答えると、盛り上がります。恋愛の話になるとさらに盛り上がります。そんなたわいもない会話をしながら豆を選別する時間が好きでした。ケニアの子どもたちと接していて日本の子どもたちと何も変わらないなと、2週間を通して常々私は感じていました。しかし、しかし、忘れてはいけないのはここが児童養護施設という事、彼女たちと話をしているとその事を忘れてしまいます。正直私が鈍感ということもあるのでしょうが、振り返ってみて彼女たちの目から淋しさ悲しさを感じた事が一度もありませんでした。元気が良すぎて、明るすぎて。ここで生活している子どもたちは、何かしらの理由で親と一緒に生活することができなくなり、親戚などと生活するという調整もうまくいかず、それぞれのドラマを経てサイディア・フラハで生活しています。コーディネーターの荒川さんによれば、父親は生まれた時にはおらず、母親を病気などで亡くし、この施設にやってくる子が多いのだそうです。彼女たちの背景にはケニアの抱える問題が大きく影響しているように思います。淋しさを見せないのは彼女たちのたくましさなのでしょうか。私がご飯を食べる席は児童養護施設で暮らす子の中でも小さい子たちのテーブルでした。この子たちの笑顔を前にして、喉の奥あたりがムズムズとすることが頻繁にありました。

【最後に】

 二週間があっという間に過ぎました。このワークキャンプの期間に、サイディアの近隣にある自閉症、学習障害、ダウン症の子どもを支援している学校見学、ストリートチルドレンを受け入れ支援している施設の見学。さらにはチャイルドドクター(スラムなどの子どもたちの健康管理、サポートをしている方)と実際にスラムを一緒に回り見学させていただくこともできました。ケニアの子どもたちを様々な角度から見ることができたように思います。このワークキャンプでとても貴重な体験をさせていただきました。児童養護施設の子どもたちとの別れがこんなに淋しいものになるとは、ここへ来る前は考えもしませんでした。今、日本でこの文章を書いていますが、彼女たちの姿を思い出すと元気が湧いてくるような気がします。初めから彼女たちのために私に何かできるとは思ってもいませんでしたが、案の定、私の方が力をもらったような気がします。  今回このような貴重な体験をできたのも、コーディネートしていただいた荒川勝巳さんをはじめ、サイディア・フラハの温かいスタッフ方のお蔭です。この場をおかりして心から感謝いたします。ありがとうございました。